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内積、双対ベクトル

 今からベクトルの内積という計算について説明します。内積は高校で習うように同じ\(m\)次元空間から、持ってきた2つのベクトル \[X=\sum_{i=1}^mX^ie_i,\ Y=\sum_{i=1}^mY^ie_i\] について、内積を\(X(Y)\)や\(X\cdot Y,\ \langle X,Y\rangle\)などと表し \[X(Y):=\sum_{i=1}^mX^iY^i=\sum_{i=1}^mY^iX^i=Y(X)\] このように計算します。\(X(Y)\)の書き方はあまり見ないかもしれませんが、この記法も覚えておきましょう。しかし内積はベクトルからスカラーを作る計算なのですが、計算結果が座標変換に依って変わってしまいます。別にこれでもいいんですけどもっとよい方法を考えましょう。例えば物理学でもこの内積を使います。 \[\vec{F}\cdot\vec{x}=W\] 例えば物体に与える仕事\(W\)は物体に加わる力\(\vec{F}=\sum F^ie_i\)と距離\(\vec{x}=\sum x^ie_i\)の内積で表せます。ベクトルの成分について、 \[X'^i=100X^i\] となる一次変換を考えます。メートルからセンチに変えるような変換です。基底ベクトルは \[e'_i=\frac{1}{100}e_i\] と変換されるので、 \[\vec{F}=\sum_iF^ie_i=\sum_iF'^ie'_i,\ \vec{x}=\sum_ix^ie_i=\sum_ix'^ie'_i\] ベクトルは座標変換に依りませんが、 \[W'=\sum_iF'^ix'^i=10000\sum_iF^ix^i=10000W\] 内積は1万倍になります。この仕事とは物体の運動エネルギー\(K\)や、ポテンシャルエネルギー\(U\)、摩擦による熱\(Q\)などになり、これらが座標系(成分を測る定規)の変換では1万倍になりません。\(W\)もベクトルと同じように座標変換によって変わらないようにできないかと考えられたのが双対ベクトルです。内積が座標変換に依らないようにするために力\(\vec{F}\)を双対ベクトルにします。 \[F'^i=100F^i,\ e'_i=\frac{1}{100}e_i\] に対して、 \[F'_i=\frac{1}{100}F_i,\ e'^i=100e^i\] の変換法則をもつ新たなベクトルを双対ベクトルといいます。今まで使ってベクトルと区別して、成分の添え字は下、基底の添え字は上に付けます。これによりベクトルの一次変換に依らず \[W=\sum_iF_ix^i=\sum_i\frac{1}{100}F'_i\times100x^i\] \[=\sum_iF'_ix'^i=W'\] 仕事をベクトルの一次変換に依らないスカラーにすることができました。ベクトルの成分が \[X'^i=\sum_{j=1}^m\frac{\partial x'^i}{\partial x^j}X^j\] の一次変換を受けるとき、双対ベクトルの成分は \[\omega'_i=\sum_{k=1}^m\frac{\partial x^k}{\partial x'^i}\omega_k\] と変換されるので、一般の一次変換についても \[\omega'(X')=\sum_{i=1}^m\omega'_iX'^i=\sum_{i=1}^m\left(\sum_{k=1}^m\frac{\partial x^k}{\partial x'^i}\omega_k\right)\left(\sum_{j=1}^m\frac{\partial x'^i}{\partial x^j}X^j\right)\] \[=\sum_{j=1}^m\sum_{k=1}^m\sum_{i=1}^m\frac{\partial x^k}{\partial x'^i}\frac{\partial x'^i}{\partial x^j}\omega_kX^j\] \(i\)の総和に関して、チェーンルールになっているので、 \[\omega'(X')=\sum_{j=1}^m\sum_{k=1}^m\frac{\partial x^k}{\partial x^j}\omega_kX^j=\sum_{j=1}^m\sum_{k=1}^m\delta^k_{\ j}\omega_kX^j\] \(j=k\)の項以外0になるから \[\omega'(X')=\sum_{j=1}^m\omega_jX^j=\omega(X)\] 一般の一次変換についても内積が不変であることが確認できました。双対ベクトル\(\omega\)とベクトル\(X,Y\)、実数\(a\)について、 \[\omega(X+Y)=\sum_{i=1}^m\omega_i(X^i+Y^i)\] \[\sum_{i=1}^m\omega_iX^i+\sum_{i=1}^m\omega_iY^i=\omega(X)+\omega(Y)\] このように分配して計算できます。また \[\omega(aX)=\sum_{i=1}^m\omega_iaX^i\] \[=a\sum_{i=1}^m\omega_iX^i=a\omega(X)\] 実数を内積の外に持ってくることもできます。例えば3次元のベクトルについては \[\omega(X)=\omega_1e^1(X)+\omega_2e^2(X)+\omega_3e^3(X)\] まずは分配法則を使いました。更に\(X=X^1e_1+X^2e_2+X^3e_3\)についても分配法則を使い、 \[\omega(X)=\omega_1e^1(X^1e_1)+\omega_1e^1(X^2e_2)+\omega_1e^1(X^3e_3)\] \[+\omega_2e^2(X^1e_1)+\omega_2e^2(X^2e_2)+\omega_2e^2(X^3e_3)\] \[+\omega_3e^3(X^1e_1)+\omega_3e^3(X^2e_2)+\omega_3e^3(X^3e_3)\] 実数\(X^i\)を内積の外に出します。 \[\omega(X)=\omega_1X^1e^1(e_1)+\omega_1X^2e^1(e_2)+\omega_1X^3e^1(e_3)\] \[+\omega_2X^1e^2(e_1)+\omega_2X^2e^2(e_2)+\omega_2X^3e^2(e_3)\] \[+\omega_3X^1e^3(e_1)+\omega_3X^2e^3(e_2)+\omega_3X^3e^3(e_3)\] これが\(\sum\omega_iX^i\)と等しいので、基底ベクトルの内積が満たすべき性質は \[e^i(e_j)=\delta^i_{\ j}\] です。