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正方行列

行列について知っている方は読み飛ばしてもらっていいです。行列は本当にいろいろ使えるのだが、今回はクリストッフェルの記号を求めるためだけの知識を抜粋して紹介しよう。
 次の連立方程式を解いてみる。 \[ax^1+bx^2=y^1\tag{1}\] \[cx^1+dx^2=y^2\tag{2}\] (1)式\(\times d-\)(2)式\(\times b\) \[(ad-bc)x_1=dy^1-by^2\] \[x^1=\frac{dy_1-by_2}{ad-bc}\] (2)式\(\times a-\)(1)式\(\times c\) \[(ad-bc)x_2=-cy_1+ay_2\] \[x^2=\frac{-cy_1+ay_2}{ad-bc}\] のように\(ad-bc\neq0\)のとき解くことができる。(物理では\(ad-bc\neq0\)ならそもそも連立方程式にならないことがほとんどなのであまり考えなくていいかも)この連立方程式を定式化するために正方行列というものを使ってみよう。 \[A:=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}\] 連立方程式の係数だけを並べたものを正方行列(縦、横で同じ数の係数が並んだ行列)と呼ぶことにする。行列の計算ルールを2つ覚えてもらう。1つ目は \[\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x^1\\x^2\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}ax^1+bx^2\\cx^1+dx^2\end{pmatrix}\tag{3}\] である。ベクトルを横向きにして1行目、2行目に掛けると覚えよう。この計算ルールを定義することで、 \[\begin{pmatrix}ax^1+bx^2\\cx^1+dx^2\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}y^1\\y^2\end{pmatrix}\] この連立方程式を、 \[\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x^1\\x^2\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}y^1\\y^2\end{pmatrix}\] のように表すことができる。2つ目のルールは、 \[k\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}ka&kb\\kc&kd\end{pmatrix}\] くくりだしや、分配みたいなことをしてもよい。連立方程式の解は \[\begin{pmatrix}x^1\\x^2\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}\frac{dy_1-by_2}{ad-bc}\\\frac{-cy_1+ay_2}{ad-bc}\end{pmatrix}\] なので2つ目のルールを使うと、 \[\begin{pmatrix}x^1\\x^2\end{pmatrix}=\frac{1}{ad-bc}\begin{pmatrix}dy_1-by_2\\-cy_1+ay_2\end{pmatrix}\] さらに1番目のルールを使って、 \[\begin{pmatrix}x^1\\x^2\end{pmatrix}=\frac{1}{ad-bc}\begin{pmatrix}d&-b\\-c&a\end{pmatrix}\begin{pmatrix}y_1\\y_2\end{pmatrix}\] とできる。ベクトル\((y_1,y_2)\)の前についているやつも行列とみなすと、 \[A^{-1}:=\frac{1}{ad-bc}\begin{pmatrix}d&-b\\-c&a\end{pmatrix}\] この行列\(A^{-1}\)を\(A\)の逆行列と言う。 \[\begin{cases}y^1=ax^1+bx^2\\y^2=cx^1+dx^2\end{cases}\] という連立方程式から、 \[\begin{pmatrix}x^1\\x^2\end{pmatrix}=A^{-1}\begin{pmatrix}y_1\\y_2\end{pmatrix}\] を計算することで、 \[\begin{cases}x^1=a'y^1+b'y^2\\x^2=c'y^1+d'y^2\end{cases}\] のように逆の連立方程式を得ることができる。
**逆行列**
 行列\(A\)を \[A:=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}\] とした場合逆行列\(A^{-1}\)は \[A^{-1}=\frac{1}{ad-bc}\begin{pmatrix}d&-b\\-c&a\end{pmatrix}\] である。逆行列\(A^{-1}\)を使うことで、 \[Ax^{\mu}=y^{\nu}\] のような\(y^{\nu}\)に関する連立方程式を \[x^{\mu}=A^{-1}y^{\nu}\] \(x^\mu\)についての連立方程式にすることができる。

双対空間の計量テンソル\(g^{\mu\nu}\)

 任意のベクトル\(A^{\mu}\)は、局所座標での基底ベクトルと双対な基底ベクトルを使って、 \[\boldsymbol{A}=A^1\boldsymbol{e}_1+A^2\boldsymbol{e}_2=A_1\boldsymbol{e}^1+A_2\boldsymbol{e}^2\tag{4}\] の2通りの書き方ができる。双対基底同士の内積を\(g^{\mu\nu}:=\boldsymbol{e}^{\mu}\cdot\boldsymbol{e}^{\nu}\)と定義する。(4)式の両辺に基底ベクトル\(\boldsymbol{e}_1,\boldsymbol{e}_2\)の内積をそれぞれ取ると、 \[\begin{cases}\boldsymbol{e}_1\cdot\boldsymbol{A}=(\boldsymbol{e}_1\cdot\boldsymbol{e}_1)A^1+(\boldsymbol{e}_1\cdot\boldsymbol{e}_2)A^2=1\ A_1+0\ A_2 \\\boldsymbol{e}_2\cdot\boldsymbol{A}=(\boldsymbol{e}_2\cdot\boldsymbol{e}_1)A^1+(\boldsymbol{e}_2\cdot\boldsymbol{e}_2)A^2=0\ A_1+1\ A_2\end{cases}\] 計量テンソルを使って表すと、 \[\begin{cases}g_{11}A^1+g_{12}A^2=A_1 \\g_{21}A^1+g_{22}A^2=A_2\end{cases}\tag{5}\] なんと連立方程式っぽい形になった。次に双対な基底ベクトル\(\boldsymbol{e}^1,\boldsymbol{e}^2\)と\(A^{\mu}\)の内積は \[\begin{cases}\boldsymbol{e}^1\cdot\boldsymbol{A}=1\ A^1+0\ A^2=(\boldsymbol{e}^1\cdot\boldsymbol{e}^1)A_1+(\boldsymbol{e}^1\cdot\boldsymbol{e}^2)A_2 \\\boldsymbol{e}^2\cdot\boldsymbol{A}=0\ A^1+1\ A^2=(\boldsymbol{e}^2\cdot\boldsymbol{e}^1)A_1+(\boldsymbol{e}^2\cdot\boldsymbol{e}^2)A_2\end{cases}\] こちらも計量テンソルを使って、 \[\begin{cases}A^1=g^{11}A_1+g^{12}A_2 \\A^2=g^{21}A_1+g^{22}A_2\end{cases}\tag{6}\] (5)式を、行列を使って表すと、 \[\begin{pmatrix}g_{11}&g_{12}\\g_{21}&g_{22}\end{pmatrix}\begin{pmatrix}A^1\\A^2\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}A_1\\A_2\end{pmatrix}\] (6)式は、 \[\begin{pmatrix}A^1\\A^2\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}g^{11}&g^{12}\\g^{21}&g^{22}\end{pmatrix}\begin{pmatrix}A_1\\A_2\end{pmatrix}\] また(4)式、(5)式について、ベクトルの\(\mu\)成分は、 \[A_\mu=g_{\mu1}A^1+g_{\mu2}A^2\] \[A^\mu=g^{\mu1}A_1+g^{\mu2}A_2\] 縮約を取ると、 \[A_\mu=g_{\mu\nu}A^\nu\] \[A^\mu=g^{\mu\nu}A_\nu\] 計量テンソルをつかうことで、ベクトルから双対空間のベクトルの成分を得ることができる。
**計量テンソル逆行列**
 ベクトル空間の計量テンソル\(g_{\mu\nu}\)と双対空間の計量テンソル\(g^{\mu\nu}\)は逆行列の関係にある。 \[\begin{pmatrix}g_{11}&g_{12}\\g_{21}&g_{22}\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}g^{11}&g^{12}\\g^{21}&g^{22}\end{pmatrix}^{-1}\] \(A^\mu\)ベクトルの基底を双対なものに変えると成分は \[A^\mu=g^{\mu\nu}A_\nu\] である。双対空間から見て双対な空間は元の空間なので、 \[A_\mu=g_{\mu\nu}A^\nu\]
/* 蛇足
 実際、相対性理論に応用するために4次元を扱わなくてはならない。4次元で逆行列を考えるのはとても大変なことである。そこで対角行列というものを紹介しよう。 \[A=\begin{pmatrix}a_{00}&0&0&0\\0&a_{11}&0&0\\0&0&a_{22}&0\\0&0&0&a_{33}\end{pmatrix}\] のような行列を対角行列という。連立方程式の表記をすると、 \[\begin{pmatrix}a_{00}&0&0&0\\0&a_{11}&0&0\\0&0&a_{22}&0\\0&0&0&a_{33}\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x_0\\x_1\\x_2\\x_3\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}y_0\\y_1\\y_2\\y_3\end{pmatrix}\] \[\begin{cases}a_{00}x_0=y_0\\a_{11}x_1=y_1\\a_{22}x_2=y_2\\a_{33}x_3=y_3\end{cases}\] \(x^\mu\)について解くと、 \[\begin{cases}x_0=y_0/a_{00}\\x_1=y_1/a_{11}\\x_2=y_2/a_{22}\\x_3=y_3/a_{33}\end{cases}\] つまり行列の表記をすると、 \[\begin{pmatrix}x_0\\x_1\\x_2\\x_3\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1/a_{00}&0&0&0\\0&1/a_{11}&0&0\\0&0&1/a_{22}&0\\0&0&0&1/a_{33}\end{pmatrix}\begin{pmatrix}y_0\\y_1\\y_2\\y_3\end{pmatrix}\] 対角行列の逆行列は \[A^{-1}=\begin{pmatrix}1/a_{00}&0&0&0\\0&1/a_{11}&0&0\\0&0&1/a_{22}&0\\0&0&0&1/a_{33}\end{pmatrix}\] のように各成分の逆数を求めるだけでよい。相対性理論に活用するためには、\(4\times4\)の逆行列の計算が大変なので、対角行列をどうにか作るなどの工夫が必要である。幸いにも計量テンソルはほとんどの場合対角行列として扱うことができる。
終わり */